春の訪れを告げる「桜」。お花見などで馴染み深い花ですが、「桜には全部で何種類あるのか?」と疑問に思ったことはありませんか?実は、私たちが普段目にしているソメイヨシノ以外にも、日本には数多くの桜が存在します。本記事では、桜の種類の数から、代表的な品種の名前の由来、開花時期、見分け方の特徴までを詳しく解説します。
桜の種類は実は600種以上!野生種と園芸品種の違い
「桜」と一言で言っても、その種類は非常に多岐にわたります。分類方法によって数は前後しますが、日本国内だけでも一般的には600種類以上あると言われています。
これら膨大な数の桜は、大きく分けて「野生種(基本種)」と、人の手によって生み出された「園芸品種」の2つに分類することができます。それぞれの特徴を見ていきましょう。
日本固有の野生種(基本種)は10〜11種類
野生種とは、人の手を加えずに古来より日本の山野に自然に自生している原種の桜のことです。
何百種類もある桜ですが、そのベースとなっている基本種は実は非常に少なく、植物学上の分類では主に以下の9種〜11種とされています。これらが自然交配したり、突然変異を起こしたりすることで多様な品種が生まれました。
- ヤマザクラ
- オオシマザクラ
- エドヒガン
- オオヤマザクラ
- カスミザクラ
- マメザクラ
- タカネザクラ
- チョウジザクラ
- ミヤマザクラ
- カンヒザクラ(沖縄などで自生)
- クマノザクラ(2018年に約100年ぶりに新種として認定)
特に「ヤマザクラ」や「エドヒガン」などは寿命が長く、山間部などで巨木として現存しているケースが多く見られます。
観賞用に改良された園芸品種
園芸品種とは、野生種を変異させたり、人為的に交配させたりして生まれた観賞用の桜のことです。
平安時代の頃から、日本人は美しい桜を楽しむために品種改良を重ねてきました。特に江戸時代後期から明治時代にかけて多くの品種が作られ、現在私たちが公園や街路樹で見かける桜の大部分は、この園芸品種にあたります。
また、これらの園芸品種は、人里近い場所に植えられてきたことから、総称して「サトザクラ(里桜)」と呼ばれることもあります。代表的な「ソメイヨシノ」も、エドヒガンとオオシマザクラを交配して作られた園芸品種の一つです。
【代表種】これだけは知っておきたい桜の主要品種5選
600種以上ある桜の中でも、特にお花見スポットや街中でよく見かける日本を代表する5つの品種をご紹介します。それぞれの特徴や見分け方を知っておくと、お花見がより深く楽しめるようになります。
1. ソメイヨシノ(染井吉野):日本の桜の代名詞
現在、日本の観賞用桜の約8割を占めるとも言われているのがソメイヨシノです。気象庁が開花宣言を出す際の「標本木」としても知られています。
江戸時代末期に、オオシマザクラとエドヒガンを交配して作られた品種で、接ぎ木(クローン)によって全国に広まりました。最大の特徴は、葉が出る前に花だけが一斉に咲く点です。視界を遮る葉がないため、木全体が薄ピンク色に染まる圧倒的な美しさが魅力です。
2. ヤマザクラ(山桜):古来より愛される野生の桜
ソメイヨシノが普及する明治時代以前、日本で「花」といえば主にこのヤマザクラを指していました。吉野山(奈良県)の桜としても有名で、多くの和歌にも詠まれている歴史ある桜です。
ソメイヨシノとの一番の見分け方は、開花と同時に赤茶色の若葉が出ることです。淡い花の色と赤い葉のコントラストが美しく、野趣あふれる趣のある姿が特徴です。
3. シダレザクラ(枝垂桜):優美に垂れ下がる姿が魅力
名前の通り、枝が柳のように柔らかく垂れ下がっている桜の総称ですが、一般的にはエドヒガンの変種を指します。
京都の「祇園枝垂桜」や福島の「三春滝桜」など、樹齢1000年を超えるような巨木・名木が多いのも特徴です。上から降り注ぐように咲く優美な姿は、他の桜にはない独特の風情があります。
4. カワヅザクラ(河津桜):一足早く春を告げる早咲きの桜
1955年に静岡県河津町で発見された早咲きの品種です。オオシマザクラとカンヒザクラの自然交雑種と考えられています。
最大の特徴は、1月下旬から2月にかけて咲き始める早咲きであることと、開花期間が約1ヶ月と非常に長いことです。花びらは大きめで、ソメイヨシノよりも鮮やかな濃いピンク色をしています。
5. ヤエザクラ(八重桜):豪華な花弁と長い開花期間
「八重桜」は特定の品種名ではなく、花弁が幾重にも重なって咲く桜の総称です(代表的な品種に「カンザン(関山)」などがあります)。
ソメイヨシノが散った後の4月中旬から5月上旬に見頃を迎える遅咲きの桜です。花と同時に葉が出ることが多く、花びらの枚数が多いため、ぼってりとした丸い形がボタンの花に似ていることから「ボタンザクラ」とも呼ばれます。
【開花時期別】早咲きから遅咲きまで!季節を楽しむ桜たち
「桜=4月・入学式の季節」というイメージが強いですが、実は品種によって見頃は大きく異なります。早咲きの品種から遅咲きの品種までを知っておけば、2月から5月頃まで、数ヶ月にわたって桜を楽しむことができます。
2月〜3月上旬:一足早い春を感じる「早咲きの桜」
まだ寒さの残る時期から咲き始める桜です。濃いピンク色の花をつける品種が多く、春の訪れをいち早く感じさせてくれます。
- カンヒザクラ(寒緋桜):釣鐘状の濃い紅色の花を下向きに咲かせます。沖縄で「桜」といえば、このカンヒザクラを指します。
- カワヅザクラ(河津桜):伊豆半島などで有名な、ピンク色が鮮やかな品種です。開花期間が長く、写真映えすることでも人気です。
3月下旬〜4月上旬:お花見シーズン到来「春本番の桜」
関東以西の平地で、最も多くのお花見スポットが見頃を迎える時期です。薄いピンクや白の桜が中心となります。
- ソメイヨシノ(染井吉野):言わずと知れたお花見の主役。満開時のボリューム感は圧巻です。
- エドヒガン(江戸彼岸):春のお彼岸(3月20日頃)の時期に咲くことから名付けられました。
- オオシマザクラ(大島桜):真っ白な花と緑の葉が同時に楽しめます。桜餅の葉に使われるのは、香りが良いこの品種の葉です。
4月中旬〜5月:葉桜と共に楽しむ「遅咲きの桜」
ソメイヨシノが散った後も、まだまだ桜の季節は終わりません。この時期は八重咲きの品種が多く、豪華な花姿を楽しめます。
- カンザン(関山):八重桜の代表格。濃いピンク色で、塩漬けの「桜茶」にも使われる品種です。
- ギョイコウ(御衣黄):珍しい緑色の花を咲かせる桜です。開花が進むにつれて、中心部が徐々に赤く変化していくのが特徴です。
- フゲンゾウ(普賢象):室町時代からある歴史の古い品種で、花の中心から出た雌しべが普賢菩薩の乗る象の鼻に似ていることから名付けられました。
花弁の数や色で見分ける!桜の分類方法
桜を見かけたときに「これは何という種類だろう?」と疑問に思ったことはありませんか?実は、「花弁の枚数」と「花の色」に注目するだけで、ある程度の種類を特定し、観察を楽しむことができます。
花弁の枚数による分類(咲き方)
桜は花弁の数によって、大きく以下の4つのタイプに分けられます。特に八重咲き以上の桜は、同じ品種でも個体によって枚数が変わることがあります。
- 一重咲き(5枚):
最も基本的で一般的な形です。ソメイヨシノ、ヤマザクラ、オオシマザクラなどがこれにあたります。すっきりとした清楚な美しさが特徴です。
- 半八重咲き(6〜15枚程度):
一重咲きよりも少し花弁が多く、中心の雄しべが花弁に変化しかけている状態のものなどを含みます。一重咲きのような軽やかさと、少しのボリューム感を兼ね備えています。
- 八重咲き(20〜70枚程度):
花弁が幾重にも重なった、ボリュームのある咲き方です。カンザン(関山)やイチヨウ(一葉)が代表的です。開花時期が遅い品種に多く見られます。
- 菊咲き(100枚以上):
まるで菊の花のように、無数の細い花弁が密集して咲くタイプです。「ケンロクエンキクザクラ(兼六園菊桜)」などは、1つの花に300枚以上の花弁をつけることもあります。
花の色による分類
桜といえばピンク色を想像しますが、実はそれ以外の色を持つ珍しい品種も存在します。
- 白・薄ピンク:
最も多くの品種がこの色に当てはまります。ソメイヨシノは蕾のときはピンクですが、満開になるとほぼ白に近い色になります。
- 濃いピンク・紅:
カンヒザクラやヨウコウ(陽光)など、遠目からでもはっきりと色がわかる鮮やかな品種です。青空によく映える写真映えする色合いです。
- 緑・黄緑・黄色:
非常に珍しい色の桜です。緑色の「ギョイコウ(御衣黄)」や、淡い黄緑色の「ウコン(鬱金)」などがあります。これらは、開花から時間が経つと中心部から徐々に赤く変色していくというユニークな特徴を持っています。
桜の名前の由来や花言葉に関する豆知識
お花見の席で誰かに話したくなる、桜にまつわる興味深い豆知識をご紹介します。「サクラ」という名前の語源や、品種ごとに異なる花言葉を知ることで、桜への愛着がいっそう深まるはずです。
「サクラ」の語源
なぜ「サクラ」と呼ばれるようになったのか、その由来には諸説ありますが、現在有力とされている代表的な2つの説があります。
1. 美しい女神「木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)」説
日本神話に登場する、桜のように美しいとされる女神「木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)」の名前からきているという説です。
「サクヤ」という音が転じて「サクラ」になったと言われており、この女神は現在でも富士山本宮浅間大社などで桜の神様として祀られています。
2. 「田んぼの神様」にまつわる農耕信仰説
古来の日本語の意味に基づいた説です。「サ」は穀霊(田んぼや稲の神様)を、「クラ」は神様が鎮座する場所(磐座=いわくら)を意味するとされています。
つまり、桜は「春になると里に降りてきた田んぼの神様が宿る木」と考えられていたのです。昔の人々は、桜の開花状況を見て田植えの時期を決めたり、豊作を占ったりしていました。
桜全般の花言葉と品種別の花言葉
桜全体の花言葉は「精神の美」「優美な女性」です。これは、日本の桜の美しさが、外見だけでなく内面的な潔さや奥ゆかしさを感じさせることに由来しています。
さらに、品種によっても個別の花言葉が付けられています。
- ソメイヨシノ:「純潔」「優れた美人」
圧倒的な美しさで咲き誇る姿からイメージされています。
- シダレザクラ:「優美」「ごまかし」
垂れ下がる姿が頭を下げているように見えることや、垂れた枝が何かを隠しているように見えることに由来すると言われます。
- ヤマザクラ:「あなたに微笑む」「純潔」
山の中でひっそりと、しかし美しく咲く姿を表現しています。
- ヤエザクラ:「おしとやか」「豊かな教養」
花弁が幾重にも重なる様子を、知識や教養が積み重なることになぞらえています。入学・進学シーズンの贈り物にもぴったりの意味を持っています。
まとめ:お気に入りの桜を見つけてお花見をより深く楽しもう
本記事では、桜の種類や特徴について解説してきました。最後にポイントを振り返りましょう。
日本には600種類以上もの桜が存在し、それぞれに名前の由来やユニークな特徴があります。私たちが普段「桜」と呼んで親しんでいるソメイヨシノ以外にも、野生味あふれるヤマザクラや、豪華なヤエザクラ、早春を彩るカワヅザクラなど、実に多様な品種が四季折々の景色を作り出しています。
これまでは「満開か、まだか」という開花状況ばかり気にしていた方も、これからは以下の視点を持ってみてください。
- 花弁の枚数や形はどうなっているか?
- 花と一緒に葉が出ているか?
- 色は白か、ピンクか、それとも他の色か?
こうした「品種ごとの個性」に目を向けることで、いつものお花見が発見に満ちた特別な体験に変わるはずです。
開花時期も2月から5月までと長いため、ぜひ時期をずらして様々な桜の名所を訪れ、自分だけのお気に入りの桜を見つけてみてください。